漫画研究室

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呪術廻戦17巻(143〜152話)感想:渋谷事変の後始末・死滅回游と次の目標・葦を啣む

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呪術廻戦17巻 芥見下々 集英社

2021年10月4日発売・呪術廻戦17巻の感想です。

前半は、設定や伏線の整理。
後半は、「パンダだって」「葦を啣む」です。

情報量と感情で殴られる17巻でした。

143話 もう一度

虎杖の出自、乙骨のネタバラシ、伏黒との合流、そして死滅回游<総則>
伏線を回収しながら新しい伏線を張り、次の長編に向けて展開も大きく進めるという欲張り回でした。


まずは、虎杖が赤ん坊の頃の記憶について。
虎杖の両親が初登場しました。

おぞましいことに、母親の額には縫い傷がありました。
このことから、虎杖の母親は加茂憲倫と考えられます。

加茂憲倫が虎杖の出生に関わっていること自体は以前から示唆されていましたが、まさか虎杖を産んだ実の母親とは…。胸糞設定にも程があります。

139話で腸相に「思い出せあったハズだ オマエの父の額にも縫い目が」と聞かれても、虎杖が何も思い出さなかったのは、加茂憲倫が父親じゃなく母親だからだったんですね。「加茂憲倫は男」という先入観に邪魔されていました。

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呪術廻戦139話 芥見下々 集英社

虎杖の両親については、順平との会話でも少しだけ情報が出ていました。

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呪術廻戦 第24話 芥見下々 集英社

この会話から、九相図のケースと同じように「父親が加茂憲倫で母親は出産直後に亡くなった」と思い込んでいましたね…。今になって考えると、読者のミスリーディングを意図的に誘う会話だったのかもしれません。


本筋からは逸れますが、加茂憲倫と香織の関係について。解釈が分かれるところなので、軽く触れておきます。

  1. 加茂憲倫が香織の亡骸を乗っ取り、香織本人のフリをしている
  2. 加茂憲倫が別人の亡骸を乗っ取り、仁と再婚した

この2パターンが考えられると思います。
個人的には、お爺ちゃんが「香織は死んだ」と言い切っていることと、仁が「香織」ではなく「彼女」と呼んでいることから、後者の解釈を推しています。


乙骨のネタバラシ。
登場以来「流石に味方だろ…いや敵でもおかしくはないよな…」とドキドキし続けていたので、本当に味方で良かったです。「僕が大切にしている人達が君を大切にしているからだよ」で乙骨の人柄を再確認できたのも良かったですね。

少し気になったのは、虎杖の罪悪感を拭うのに自分と虎杖の境遇を対比させて語った点。
背負っている力が自分のものではない虎杖が「悪くない」なら、背負っていた力が自分のものだった乙骨は、自分のことを「悪い」と罪悪感を抱え続けているのかもしれません。


伏黒と合流。
虎杖が救われたのは、「君は悪くない」でも「俺達のせいだ」でもなく、「まずは俺を助けろ」という言葉でした。

この言葉で救われるのが虎杖らしい…いや、この言葉で「救われてしまう」のが虎杖らしいですね。
どれだけ上手くいかなくても、心の底から自分の信念に絶望しても、虎杖の根っこから「人を助けたい」という気持ちが完全に消えることはないでしょう。


死滅回游<総則>

まだ提示されていない情報が多いので、ルールの中身についてここで触れることは避けます。
それにしても、見開きでこの文字数はインパクトが凄いですね。ハンターハンター味のする演出のようにも思いました。




144話 あの場所

キャラが集合して天元様の元へ向かう回。


「もし次 俺が宿儺と代わったら迷わず殺してくれ」

少しずつ虎杖の死のラインが引き下がっていますね。生への執着がほぼ無い。
虎杖の自己評価が限りなく0に近くなったからか、「俺は何をすればいい?」のように他人に判断を委ねる言動も増えた気がします。強く生きてくれ。


「釘崎はどうなった」
伏黒は返事しませんでしたが、虎杖は最悪を覚悟したようです。

それでも、ここで釘崎が退場なんてことはないと自分は信じています。
一度死にはしたけれど、新田弟の術式と硝子さんの反転術式で蘇生しているはずです。


「ぬっ」と暗闇から腸相兄ちゃん。
乙骨に倒されてから生死不明でしたが、元気に登場してくれました。良かったです。
雰囲気が暗い今だからこそ、いるだけで面白いお兄ちゃんには救われています。「悠仁ー!!」とか完全にギャグ笑。


真希さんも生きてました。
本当に良かったです。腸相の生存の100倍くらい嬉しい。

上半身炎上という過酷なイメチェンを強いられたにも関わらず、ちゃんとカッコいいキャラデザになっているのが流石です。真希さん、ショートも似合いますね。

右目が包帯で隠されてしまっていますが、ちょうど野薔薇も左目を失っているので、2人が眼帯をして並んだらカッコいいだろうな、と少し楽しみでもあります。


天元が登場。

加茂憲倫の台詞から、天元は世俗に干渉しないというイメージがあったので、真希さん・伏黒(禪院の子)、乙骨(道真の血)、腸相(呪胎九相図)、虎杖(宿儺の器)のことを把握しているのは意外でした。

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呪術廻戦 第53話 芥見下々 集英社

というか、容姿も意外でしたね。
生物と非生物の中間のような存在というイメージを持っていたので、人型サイズの実体が存在するとは思っていませんでした。加茂憲倫の「木」の例えにイメージが引っ張られすぎてましたね。


すごく気になっているのは、九十九を信じていいのかどうかという点。

上層部がいくらクソとはいえ、独断で宿儺の器・宿儺の目的・特級術師を天元接触させるのは良くないと思うんですよね。
拒絶される理由に思い当たりがあるなど、やたら天元に詳しいのも怪しいですし、九十九を信頼していいのかどうか決めかねています。

145話 裏

天元から語られる圧倒的な情報量。
基本的に話の内容の通りで、考察や解釈の余地は少ないんですが、なかなか全てを理解・把握するには苦しみました。


まず、九十九が加茂憲倫(羂索)に同調していることを警戒した天元が九十九を招き入れたということは、九十九は味方で確定ということでしょう。

ただ、まだ自分は九十九を完全に信用できないですね。
12年前、天元が星漿体との同化に失敗していたことを知った九十九が「どうりで声が増えないわけだ」なんて呟いてるのも気になりますし。声って何?
天元の護衛に残ったのも不穏だな…。


天元様と人類の同化については、エヴァ人類補完計画をイメージすると理解が進みました。
いや、人類補完計画のこともさして理解できていないんですけどね。かなり類似した設定ではあると思います。人類が個体の集団から単一の存在になるイメージです。


とりあえず細かい情報を無視すると、羂索の狙いは「死滅回游→同化前の慣らし→人類と天元の同化→人類の進化→悪意の伝播→世界の終わり」ということになります。

そして、虎杖側の目的は「津美希の救出」「羂索の阻止」の2つです。
津美希の救出は「死滅回游に参加→100pt貯める→死滅回游を離脱できるルール追加→津美希救出」の流れ、羂索の阻止は「死滅回游に参加→術式を消滅させる『天使』と接触→獄門彊・裏から五条先生を救出→羂索を阻止」天元の護衛→同化の阻止」の流れです。

長期目標のための中期目標、中期目標のための短期目標…と現状の把握がやや難しくなっています。

146話 死滅回游について

総則を一つずつ押さえながら、細かい条件を確認する回でした。ムズカシイ。


硝子さんの「使用禁止ではなく剥奪だから縛りでもない」という解説は、正直なところ意味が全く分かりませんでした。頑張って設定を考えてくれた芥見先生には申し訳ないですが、ここは理解しないまま読もうと思います。
「死滅回游の総則には『術式の剥奪』としか書かれていないが、事実上は『死亡』を意味する」と理解してさえおけばそれで問題ないでしょう。


ここからは別行動。

真希さんは、組屋鞣造のアトリエと禪院家の忌庫へ。
高専忌庫は禪院家と加茂家がすっからかんにした模様。悟が封印されて秒で軽視されてしまう五条家を笑うしかないです。
五条悟が生まれるまでどうやって御三家の立場をキープしてたんだよ。

虎杖と伏黒は、停学中の3年・秤の勧誘へ。
真希さんに「それはない」とつっこまれているとはいえ、乙骨に「ノッてる時は僕より強いよ」と言わせるほどの術師とは楽しみです。


死滅回游の泳者が初登場。

先輩芸人の「ケンさん」はケンコバさんがモチーフのキャラでしょう。
芥見先生と番組で共演した縁で実現したんですかね。羨ましいです。

最後のセリフの「本当は七三くらいが…」が少し気になります。
七三といえばナナミンですが、関係あるのかな?
羂索に十劃呪法を与えられた泳者なのかもしれません。

147話 パンダだって

完全自律の呪骸・タケルのエピソード。
日下部も言っているように決して肯定していいものではないんですが、「これで良かった」としか言いようがないですね。
「天才だろ?」が生前の姿と重なって、日下部の妹さんが駆け寄るところでグッと来てしまいました。

今回のエピソードでは、日下部も人間臭いキャラだったことが判明したので、日下部への親近感も上がりました。ただの日和見キャラじゃなかったですね。


さて、今回明かされた「自立呪骸を意図的に作れる」「子供を失った母親の心を呪骸で支えた」という情報を基に考えると、パンダには夜蛾学長の実の息子の情報が入っているという可能性が浮上しました。このタイミングで親子関係を匂わせてくるの辛すぎますね…。


夜蛾学長、死亡。
最後、蛾が潰れた演出がエグいです。学長と重ねてるのね。

ずっと「夜蛾学長=内通者説」を推していて、今回も「胡散くせえ死に方だな〜?やっぱ内通者か?」と斜に構えて読んでいたので、初読でパンダのガチ泣きテンションについていけないという事故が発生しました。
(一応、単行本でフラットな気持ちで読み返すと、しっかり感情移入できました)




148話 葦を啣む

扉絵。
へその緒が絡まり合った双子の胎児が描かれています。
絆の象徴か、あるいは呪いの象徴か。


いきなり直哉。
東京で腸相にボコボコにされて帰ってきたはずなのに、早速イキリ散らかしていて笑いました。どういうメンタルしてるんだろう。
「なんとか言えや カス」と言っているということは、去り際に真希に無視されたんでしょうね。可哀想。ウケる。


「一度くらい産んで良かったと思わせてよ…真希」

これは酷い。いくらなんでも母親の口から出していい言葉じゃないですね。
「産んで良かったと思わせてよ」くらいなら、まだクズ親の範疇で理解できるんですが、ここに「一度くらい」をつけられてしまうと理解のしようがありません。

そして、母親が母親なら父親も父親。
くだらない権力争いのために実の娘を殺そうとするとは…。
しかも、発案者が扇本人というのは論外です。禪院家のクズ共の中でも、ずば抜けて扇のことが嫌いになりました。


胸糞の悪い展開でしたが、それでも真希vs扇のバトルはカッコ良かったです。

呪術ならではのスピード感のあるアクションは勿論ですが、真希さんが「竜骨」を取り出すときの立ち姿も好きです。
スタイルが筋肉で極限まで引き締まっていました。これはもう機能美と言っても差し支えないレベルですね。

バトルの勝敗については、「どうせ真希さんが勝つだろう」と油断して読んでたので、ラストで扇に斬られてしまったのには驚きました。

149話 葦を啣む-弍-

「真希が強くなるためには何かを捨てなければいけない」とファンブックで言及されていて、何を捨てるかについては色々と説がありました。
その中でも最悪の予想が当たってしまいました…。


真依が呪具を遺して逝きました。

真希と真依は、分かりやすく仲の良い姉妹というわけではなかったわけですが、お互いに大事に想っていることは、交流戦とかで少しずつ描写されてたわけですよ…。
そうやって、静かに少しずつ積み上げていた姉妹愛が一気に来ました。
第一印象は最悪だった真依の死で自分がここまで動揺するとは…。

真依が直前までは『他は捨てなさい』と強い口調で話しているのに、最期の最期に子供のように『お姉ちゃん』と語りかけるのとか…本当に…。


別れを経て、甚爾と同じ境地に達した真希。
真希が甚爾の姿と重なるコマがカッコ良すぎて震えました。

扇の「術式開放 焦眉之赳」はエフェクトが激しい技でしたが、それに対して真希は静かに頭を一刀両断。落差が凄まじいインパクトを生み出しています。


サブタイの「葦を啣む」は「葦を啣む雁」という故事から。

「葦を啣む雁」(あしをふくむかり)の意味

海を渡る雁が途中で休むために葦をくわえていくことから、準備が万端という意味だそうです。
漫画でも雁が描かれていましたね。

ただ、今回のエピソードで真依を雁に当てはめると、海を渡る(=あの世に逝く)のは真依。しかし、持っていくはずの葦(=呪具)は真希に遺していきました。
どうも元の言葉とは逆になってしまうんですよね。

ということで、雁に当てはめるのを真希に移してみます。
海を渡る(=未来に進む)のは真希。そして、葦(=呪具)を真依から貰い準備万端に。
個人的には、こちらの解釈の方がしっくりきます。

150話 葦を啣む-参-

禪院姉妹の見開き。

良いですね…。生前はお互いに想いを隠していた二人が、子供のころのように笑顔で手を繋いでるのが最高です。


禪院家vs真希、躯倶留隊を相手に無双です。
見開き2連発でひたすらに相手を斬り続けるとは圧倒されますね…。

準一級以上の実力をもった炳相手にも完勝。真希さんマジでめちゃくちゃ強くなったな。
炳の術式も多様で面白いんですが、それをフィジカルだけで圧倒する真希さんのチートが際立つ結果となりました。

本筋からは逸れるんですが、蘭太の術式を見てドラゴンボールチャオズに似てるな〜と思いました。
相手の動きを止めるなんて珍しくもない能力なんですが、なぜか見た瞬間にチャオズが思い浮かんだんですよね。背が低いのも共通してるからかな?


ただ、ここまで身内を虐殺していると、このあとの真希さんの立場が不安なところです…。人間性がアレとはいえ禪院家は体制側なので、上層部から死刑宣告されたりしそうだなと。

これまでは真依を助けることをモチベーションに禪院家の当主を目指していたはずなので、「全部壊して」がモチベーションになった今の真希さんがどこを目指すのかも気になるところです。


「炳」筆頭 禪院直哉の登場。

肩書きだけみると強そうなキャラですが、今のところ戦績は1敗だけです。ここまで負ける未来しか見えないキャラも珍しいですね。

ネットでは「人の心とかないんか?」のコマが1人歩きしていますが、個人的には「アイツが持ってっちまったからな」という真希の返事の方もハイセンスで好きだったりします。

151話 葦を啣む-肆-

真希VS直哉。

直哉のスピードが超高速な一方で、真希の不知火型や殴る直前では意図的に時間をゆっくり描写している部分もあり、その緩急でお互いがお互いを引き立てていたように思います。

また、構造物がどんどん破壊される派手なバトルでもありました。
漫画の時点でこれだけの迫力なので、アニメでどうなるかは想像すらつきませんね。早くも今から楽しみです。


意外なことに、直哉から甚爾へのクソデカ感情が判明。

まさか直哉の内面が描写されるとは思ってもみませんでした…。
憧れ?嫉妬?「アッチ側に立つんは俺や」と言っていますが、読者はそれが不可能なことをよく知っていますし、おそらく本人も気づいているはず。どこか虚しさの漂うクソデカ感情でした。

特に伏線になってるわけでもないですし、シンプルに直哉の掘り下げだったみたいですね。
まあ、内面が描写されようがなんだろうが、嫌いは嫌いです。

152話 葦を啣む-跋-

母親の死の解釈で少し悩んでます…。

真希さんが「あの時なんで『戻れ』って言ったの?」と訊いたのは、『戻れ』が「娘に死んで欲しくない」という母の優しさから出た言葉かもしれないと思ったからだと思います。
あるいは、母の優しさではないと内心ではわかっていながら、確認せずにはいられなかったのかもしれません。

それに対して母親が「何の話?」と返したということは、やはり母娘の情は無かったということでしょう。


母親が直哉にトドメを刺したのも解釈が難しいところ。

真希さんの思い(禪院家をぶっ壊せ)を汲んで直哉にトドメを刺したと読むこともできなくはないと思いますが、どちらかというと、仕えていた直哉への鬱憤を晴らしただけじゃないのかな…と思ってます。ただの私怨ですね。

そうなると、「産んで…よかった…」も言葉通りの意味とは違うのかなと。
最期に思い浮かべてるのは、まだ家に反抗していない頃の幼い姉妹です。自分にとって都合がいいかどうかだけで姉妹を見ていたのかな。
だとしたら、「産んで…よかった…」は、「最期に真希が自分の私怨を晴らさせてくれて良かった」みたいな意味だったのかもしれません。胸糞。




単行本おまけ

表紙裏。
引き続き「じゅじゅさんぽ」はお休みでしたが、いつもの「外出自粛」ではなく「いぇ〜い」(ワクチン接種)でした。
18巻からは「じゅじゅさんぽ」を再開できると良いんですけどね…。


作者コメント。
おそらく152話〜153話での中期休載を念頭に置いたコメントです。
週刊連載で「無理せず」は不可能かもしれませんが、できる限り身体を大切にして執筆して頂きたいものです。


禪院家の家系図
直毘人の父親が23代。直毘人の兄が25代。直毘人が26代。
「24代は誰だったんだろう」とか「直毘人の兄は任務で命を落としたのかな」など情報の隙間からも色々と想像ができる家系図でした。


躯倶留隊の炳レビュー。
扇と直哉がボロクソ、解釈一致。


ここまで読んで頂きありがとうございました。
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